遺産分割協議でご依頼いただく案件には、他の相続人と何年にもわたって交流がなく、自分たちで話し合いをすることは困難なので弁護士に入ってほしい、というものがあります。
弁護士が受任して他の相続人に遺産分割協議を申し出ようとする場合は、まず、相続人の調査をおこないます。被相続人の出生から死亡まで、および、そこから分かれた相続人全員の方の現在までの戸籍、除籍、戸籍の附票等を取得し、誰が相続人であるか、どこに居住しているかを調べます。
そして、判明した他の相続人の住所にあてて、相続が開始したこと、その方が相続人であること、相続に関する事情、依頼者の要望などについて手紙を出し、当職まで連絡をいただきたいとお願いすることになります。
弁護士から他の相続人の方への最初の連絡手段としては手紙の送付が一般的だと思いますが、中には、事前に相続開始についてまったくご存じなかった方もいらっしゃったりして、「突然、法律事務所から手紙が届いて驚いた」と言われることもあります。
そんな声をお聞きすると、弁護士から突然の連絡をすることを申し訳なくも思いますし、弁護士に対して警戒心を抱かれるのもやむをえないとも思います。
手紙を受け取られた他の相続人ご本人、あるいは、他の相続人が依頼された弁護士から電話等でご連絡をいただけると、とりあえず一段階進んだと、正直、ホッとします。他の相続人の方としては、弁護士に電話することは気が重いかもしれませんが、ご連絡をいただけないと話合いを始めることができないからです。
そして、他の相続人ご本人が対応にあたられる場合は、一定の信頼関係をいかに築くかということが大切だと感じています。
依頼者の方と、他の相続人の方は、当然、利益が相反します。弁護士は依頼者の利益のために働くのが役目ですので、他の相続人の方からすれば、弁護士は自分に不利な方向に話を進める人、というように見られるかもしれません。しかし、実は、弁護士としても、他の相続人の方から一定程度、信用していただけなければ有益な話し合いはできません。
必要な情報を丁寧に説明する、故意に事実を隠したり騙すようなことはしない、対等な立場であることを意識し誠実に対応する、などに努めることによって、他の相続人の方に、ともに解決しようとする姿勢を持っていただき、双方にとって良い結果になるとよいなと思います
相続は、それまでの長年の親族関係の経過が絡んできますので、他の相続人の方が依頼者に対して厳しい感情を持たれていることも稀ではありません。そのため、依頼者の代理人である弁護士に対しても否定的な感情を感じるのは理解できます。
しかし、依頼者にとっても、相手方である他の相続人の方にとっても、ドロドロの争いになることは決して望ましくないはずです。できる範囲で、できる限り円満に解決できた方が、時間的にも労力的にも心情的にも、お互いにメリットがあると思います。
私たち弁護士は依頼者の代理人なので、できる範囲に限りはありますが。他の相続人の方からも一定の信頼を得て、話し合いの土俵をうまく提供できるとよいなと思います。
2024.11.14コラム